2018-9-5
歯科医師の本音機能矯正(矯正歯科)と咬合(かみ合わせ)理論:機能矯正治療のゴール
Contents
機能矯正治療のゴールとは
機能矯正(矯正歯科)は歯並びというよりかみ合わせ(咬合)の完成をゴールと見据えています。
歯列矯正では咬みあわせより歯並びを重視する傾向がありますから、このあたりが機能矯正と歯列矯正の違いといえるかもしれません。
では、かみ合わせのゴールとはなんでしょうか?
咬合理論とは
咬合を考えるとき顎が静止している場合の咬合と顎運動がおこり下顎が様々な運動している場合を考える必要があります。
:顎の静止状態(セントリックリレーション、ロングセントリック等)
静止状態の咬みあわせは咬合運動の起発点となり終着点となるので非常に重要です。
ここが安定していないと顎は全く落ち着くことができないために、常時不定運動を続けることになり歯ぎしりの原因となります。
これをセントリックリレーションと言います。
セントリックリレーションが完全に失われるとかみ合わせは崩壊します。
安定させるためには歯が尖がった部分と溝の部分で咬みあっている必要があります。
またこのような咬合関係を完成させることが、機能矯正治療のゴールと当院では考えています。
:下顎が運動することによる歯の滑走
動的な場合はどうでしょうか。
顎運動は上顎は動きませんが動くのが下顎なので下顎運動として分析研究されてきました。
いろいろな計測器具を駆使して下顎運動を描記し、パターン化して普遍的に再現しようという試みが盛んに行われています。
1962年、スェーデンのPosseltによって紹介された運動範囲菱形柱があります。
これは下顎の切歯点の運動経路を3次元的に描記したもので、今でも顎運動の考え方の基本となっているものです。
このうち矯正で重要なのは、切歯が咬合の接触状態で前方および側方に運動した場合のカラスの足跡みたいになる図形、いわゆるゴシックアーチといわれるもので、
・矢状切歯路角(真横から見たときに下顎が前方にずれていくときの角度)
・側方切歯路角(真上から見たときに横に滑走させたときに出る角度のこと)
は咬合回復の目安となり、顎関節症の診断をするときにとても重要になります。
ゴシックアーチを離れ歯が滑走ではなく開口運動を始めると
運動の主体は顎関節となります。
顎関節が健康であれば運動は二つの弧を描くこととなります。
矯正治療にとって重要なのは
最初の弧、ターミナルヒンジアキシスから閉口に至る過程が干渉なくスムーズにいくことです。
ここに干渉が生じれば顎関節が障害され2番目の開口運動も障害されることになります。
ギシェーによるとゴシックアーチは前歯から側方歯でも描記され、最終的には顎関節も描記しているとしています。
顎関節は咬合的には第四の大臼歯であると考えると、歯の運動と顎関節の運動は調和がとれている必要があるということになります。
もう一つ重要なのは運動菱形柱は3次元的な解析で、側方から見た場合の下顎の前下方への運動描記されています。
この運動路は前方はもちろん切歯によって誘導されているのですが後方は顎関節によって支えられています。
下顎が前下方に運動すれば当然顎関節も前下方に運動することとなり、この時両者は調和がとれていることが必要になってきます。
つまり下顎運動はすべて切歯の誘導と顎関節両者の調和のとれた誘導が必要になるわけであってこれは成長の過程で成長とともに獲得されてきます。
機能矯正の基礎「ナソロジー」について
当院の咬合理論はナソロジーに基礎をおいています。
ナソロジーとは1920年代に、アメリカのMcCollumとStallardによって創設され、健康な歯を持つ高齢者の口腔内を観察することにより、偏心運動中に前歯にガイドされて臼歯部歯列が上下方向に離開し、また咬頭嵌合位では前歯は約25μ程度の間隙をもち、臼歯部歯列だけで垂直方向への荷重を負担していることを明らかにしました。
そして、理想的な咬合は、前歯が臼歯を保護し、臼歯が前歯を保護する作用を観察し、この咬合様式をミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンと名付けたのです。
このミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンこそ機能矯正がゴールと目指すかみ合わせなのです。
ナソロジー本体のテクニック的なところ(ワクシングコーンテクニックなど)はあまりの煩雑さで現在行っている人はほとんどいなくなってしまっていますが、だいたい今行われている手法はナソロジーを簡略化して実践されています。
「歯を削らず補綴」ではなく「矯正治療的」に実現しようとしているのが当院の機能矯正です。
歯科矯正治療と顎関節症
小児歯科矯正を行っていると成長とともにかみ合わせを正常に育てていくことになりますから、当然顎関節も正常に成長していき最終的には調和がとれて完成します。
補綴をせずともナソロジー的な咬合が自然と獲得されてくるわけです。
それが顎関節とともに育つため当然に調和がとれているわけです。
成人(大人)歯科矯正ではすべて完成したところから再構成する治療になりますので、歯列は変化させられますが顎関節はすでに完成してしまっているので形態的に再生することはできません。
今ある形で関節の運動に無理がかからないように治療しなければならないのですが、失敗すると顎関節症を発症してしまいます。
成人機能矯正の第一段階はまずこの顎関節の動きを正常化します。
顎関節に一番負担がかかるのは切歯路と関節の運動路が不調和の場合です。
機能矯正ではまず自然獲得した関節の誘導路を取り戻すように、不正なかみ合わせ力の治療が第一段階に含まれていますから、歯列が整った時は関節と切歯の誘導路は調和がとれていることになりますので治った後で顎関節症にはなりません。
抜歯と顎関節症について
4抜歯矯正がしばしば重篤な顎関節症を引き起こすのは4抜歯のあと前歯部分を後方に牽引してしまい、切歯点を後方に移動させてしまう事により切歯路の角度が関節の運動角に対して急斜角化するためではないかと考えられます。
切歯点だけ後方に移動してしまえば、顎関節との物理的な不調和が生じ運動路が変化してしまった顎関節が障害を受けます。
逆に言えば切歯点の位置が変わらないのなら、4抜歯矯正をしても問題ないのであって極稀に抜歯矯正できれいさっぱり治ってその後何も問題のない人がいるのはこのためです。
つまり
「4を抜いたら3が4の位置に入り込んであとは何もせずに治ってしまった」
というような方は4抜歯が適応だったという事です。
4抜歯がすべて悪いわけではありません。
しかしそれを金科玉条にしてすべて強引に適用すれば副反応が起こる方が出ます。
当院での機能矯正治療のゴール
機能的に考えるなら歯列がきれいに並んでいるのみならず咬合機能が回復していなければなりません。
咬合論的に考察すれば歯科矯正治療も顎関節を考慮しさらにミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンを目指すことが必須になると考えます。
この観点に立つならどの歯を抜くか抜かないかということも自ずと明らかになるはずであって抜歯をすることが何故か既得権を得るようになってしまって、抜歯ありきという治療になってしまっては本末転倒ではないかと思っています。
矯正治療が終わって
・治療して本当に良かった。
・機能矯正治療をやって幸せになった。
・苦しみから解放されて毎日とても楽に暮らせるようになった。
と患者さんに思って頂き、患者さんの生活の質を向上させることこそ、当院では機能矯正治療で本当に目指すものと考えています。
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