2018-6-18
歯科医師の本音アライナー矯正(1)
今日は新しく表紙に出てもらった人の経過のお話をします。
表紙に登場してもらったのは矯正治療をしながら当院に所属していたスタッフです。
当院に来たときはこんな状態でした。
正直あまり笑わない子という印象でしたが口の中を見せてもらって
「ああなるほど」
と納得しました。
すぐに気が付くのは左上の2番が食い違いになっている、ということです。
次にわかるのは歯列の幅径が狭いということです。
じつはこの二つは関連していると思われ、まず側切歯が生えたとき、つまり6~7歳の時すぐにクロスバイトが出現しこれが原因で側方歯が生えるまでに顎の横への成長が阻害されて、きちんとした歯列が形成されなかったと考えられました。
機能矯正では通常永久歯の生えてくるところをつかまえながら、不正咬合になるのを防いでいくわけですが、このようにすでに不正咬合になってしまった方の場合
「この不正咬合はなぜ発生したのか?」
という考察から治療法を編み出していきます。
そのためには様々な資料を収集して、現状の把握と分析、そしてもし不正が発生しなかったらどのような状態になっていたかという分析を行い、正しい形になるべく近づけるには何が必要かを考察します。
おそらく歯列矯正と最も違うのはこの現状認識と治療のためのプランニングのところと思われます。
今回のケースの場合、どこに行っても抜くと言われたそうですが小臼歯抜歯が適応か否かは側貌を見ればわかるわけです。
おでこを前髪で隠しているのでわかりにくいですが、よく見ると、顔の中央部がやや陥凹していると観察されます。
小臼歯抜歯をすると中顔面は縮小しますから、小臼歯抜歯すればますます陥凹が悪化して顔貌が崩れてしまいます。
この時の口の中はというと
というような状態です。
確かに抜いて並べたくなるのも分かる気もします。
陥凹顔貌の原因は右側切歯の食い違い咬合にあります。
前歯が後ろ側に押し込まれているため健全な成長が阻害されているのです。
抜いて並べると言う発想はこの後ろ側にある側切歯に全体を合わせると言う事になりますから、歯は並んだとしても顔貌はさらに悪くなり、何よりも今でさえ舌がきちんと口の中に納まっていないのに、さらに口の中が狭くなったら舌はどこに行けばいいのでしょうか?
良く抜歯をしないと
「ゴリラのような顔になる」
という事を聞きますが、それは強引に歯だけを前に送り出せばそうなります。
私の主張でいえば機能矯正は歯列矯正ではありません。
歯列矯正は最終段階で仕上げとして出てはきます。
ちゃんと歯列も整えなければ治療といえません。
機能矯正部分が終わった途中経過はこうなります。
余り表示すると術前術後の比較と言われそうですがこれはあくまで途中経過です。
まだ完全ではありませんがかなり良くなりましたね。
ここからはいよいよ歯列矯正の出番となりますが、やることは歯をそのまま並べればいいだけでそんなに難しいことをやる必要はありません。
まだ術後ではありませんがゴリラ顔になりましたか?
窮屈なところに閉じ込められた歯を開放してあげたというのが治療の大筋となります。
余り気づかれていませんが、咬みあわせが悪いと体のいろいろなところに不具合が出ます。
どこがダメならなにという完全なケーススタディはできていないのですが、分かりやすいところではかみ合わせに起因する顎関節症
異常咬耗を伴う人の全身の不調感
歯ぎしりをする人の肩こり
などはよく経験します。
機能矯正で咬みあわせが改善した方でいえば、少なくともどこも悪くならなかったとか、なんだか快適になった、ということはよく聞かせていただきます。
さて、いよいよ歯列を仕上げていくことになりますが、なんとブラケットやワイヤーは使いたくないという要望がありました!
さてどうする?